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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2710号 判決

控訴人・被告 ミヤマ商事株式会社

訴訟代理人 高村民昭

被控訴人・原告 伊藤満寿雄

訴訟代理人 石川秀敏

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人訴訟代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人の当審における訴の追加的変更につき、「被控訴人が請求の追加的変更をなした原判決添付別紙物件目録(二)記載の土地(本件(二)の土地)については、原審において訴状添付物件目録に(一)の(ロ)の土地として加筆、訂正がなされ、この土地についても原判決添付別紙抵当権設定目録(一)、(二)記載の各抵当権設定登記の抹消登記手続を決める訴の提起がなされているから、被控訴人の当審における右訴の追加的変更ば二重訴訟に当り、許されない。右のように加筆、訂正された物件目録が添付された訴状副本は原審において控訴人に送達されていないから、原審の控訴手続は違法であり、原判決を取消し、本件は原審に差戻すべきである。」と陳述し、

被控訴人訴訟代理人は「本件控訴を棄却する。」との判決および当審における訴の追加的変更として「控訴人は被控訴人に対し原判決添付別紙物件目録(二)記載の土地につき原判決添付別紙抵当権設定目録(一)、(二)記載の各抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。」との判決を求め、「被控訴人は昭和五二年五月二〇日の原審第三回口頭弁論期日において訴状添付別紙物件目録に本件(二)の土地を、同目録(一)の(ロ)の土地として加筆、記入したものであり、訴提起時には、本件(二)の土地は右目録に記載されていなかつた。従つて、右加筆、記入の効力に疑義があるので、当審において訴の追加的変更をなしたものである。」と陳述した。

二  当事者双方の主張は、原判決事実欄第二に記載のとおりであるから、それを引用する。

三  証拠〈省略〉

理由

一  本件記録および弁論の全趣旨によると、本件訴状は昭和五一年一一月一五日原審裁判所に提出され、同年一二月一〇日控訴人に送達されたが、訴状添付別紙物件目録には原判決添付別紙物件目録(一)記載の土地と(三)記載の建物が記載されているにすぎず、本件(二)の土地は記載されていなかつたこと(本訴提起に伴う予告登記嘱託書添付の物件目録参照)、訴状は昭和五二年四月一日の原審第二回口頭弁論期日において陳述されたこと、その後、時期は不明であるが、訴状添付別紙物件目録に記載の従前の(一)の土地が、(一)の(イ)の土地と訂正され、本件(二)の土地が同目録(一)の(ロ)の土地として加筆、記入されたこと、原審において本件(二)の土地についての適式な訴の追加的変更申立書は提出されておらず、また加筆、訂正された訴状副本は控訴人に送達されておらず、右加筆、訂正の事実あるいは本件(二)の土地について請求を追加する旨などの陳述はなされていないことが認められる。

訴の追加的変更は、書面によりなされることが必要であり、またその書面は相手方に送達されねばならない(民訴法二三二条二項、三項)。従つて、前記のように訴状添付別紙物件目録に本件(二)の土地を加筆、記入することは、本件(二)の土地について、他の土地、建物についてと同じく、原判決添付別紙抵当権設定目録(一)、(二)記載の各抵当権設定登記の抹消登記手続を求める訴の追加的変更の申立とみることはできても、それはとうてい適法なものとはいえない。

もつとも、前記書面の不提出、不送達の瑕疵は、相手方がそれを知つて異議を述べないことにより治癒されるが、原審において右物件目録の加筆、記入を控訴人が立つていたことを認めうる証拠はなく、控訴人が当審において、その点について強く異議を述べていることは当裁判所に顕著である。そうすると、原審が本件(二)の土地について判決をなしたのは、原告(被控訴人)が適法な手続で申立てをしていない訴訟物について判決したことになるといわねばならない。

しかしながら、右のような場合においても、原判決中、本件(二)の土地に関する部分を法律上当然無効とみるべきではなく、控訴審において適法な訴の追加的変更がなされれば、その瑕疵は治癒されるものと解するのが相当であるところ、被控訴人は、当審において、本件(二)の土地につき、改めて適式な書面を提出して訴の追加的変更の申立をなし、この書面は昭和五六年一〇月一二日控訴人訴訟代理人に送達され、当審の第五回口頭弁論期日において陳述されたのであるから、原審における前記訴訟手続、ひいては原判決の本件(二)の土地に関する部分の瑕疵は治癒されたといわざるをえない。なお、右のような経緯に照らすと、被控訴人の当審における訴の追加的変更は、手続の不備を補正するための追完的なものであるから、控訴人主張のような二重訴訟には当らず、適法なものと解すべきである。

二  当裁判所は、被控訴人の本訴請求(本件(二)の土地に関する請求を含む)はすべて理由があるものと判断するが、その理由は、次に補正するほかは、原判決理由欄の記載(但し、原判決四枚目-記録二三丁-裏三行目冒頭から同五枚目-記録二四丁-表九行目の「これを認容し、」まで)のとおりであるから、それを引用する。

1  原判決四枚目-記録二三丁-裏九行目末尾に「(乙第五、第一〇号証(登記申請委任状)の被控訴人名下の印影が被控訴人の印鑑により顕出されたことは当事者間に争いないが、次記認定の事情からすると、右事実から同号証を真正なものとみることはできず、ほかにその真正なことを認めるに足りる証拠はない)。」を加え、同裏一〇行目の「証人伊藤怜子」の前に「原審および当審における」を加え、同行の「同広間昭雄」を「原審における証人広間昭雄」とあらためる。

2  同五枚目-記録二四丁-表九行目の「これを認容し、」を「これを認容すべきである。」とあらためる。

三  そうすると、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は結局正当ということになるから、本件控訴は理由がない。

よつて、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡垣學 裁判官 手代木進 裁判官 上杉晴一郎)

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